アビーロードにて
「門倉君いらっしゃい。やっぱり来たね。」
「やっぱりって?」
「萩さんが近いうちに門倉君が来るから、その時はマスターから話してやってくれってさ。」
私はいったい何のことかわからずにいると
「実は日曜日萩野さんが来てね・・・」
日曜日のこと
「萩野さんいらっしゃい。今日は(競馬)どうでした?」
「勝つには勝ったけど、少し心がいたくてね」
「どうしたんですか?」
「実は今日門倉君と一緒に行ったんだけど、彼にいろいろ教えるために・・・」
萩野さんはその日の事情をマスターに話した。そして最後に
「実はこんな馬券があるんだよ」
と見せたのは
9R複勝 14番 250000円
10R複勝 3番 250000円
の馬券だった。萩野は自分で予想した馬券を購入していたのだ。
「なるほどね。このことを門倉君は知らないわけですね?」
「彼のことを考えての事だったんだけど、これってよかったのかな?」
「門倉君は萩さんを心から信じているし、
これで彼に考える時間を与えたいという萩さんの気持ちはきっとわかると思いますよ。
そうやってみんな成長していくんですよね」
「そうだといいんだけど・・・・」
マスターが門倉に
「これを伝えてくれって」
「そうだったんですか。」
私は安心したのと師匠の私への気づかいから、熱いものがこみ上げてきました。
<自分が選んだ師匠はやはりすごかった>と嬉しくもなりました。
「おそらく先日萩さんが門倉君に話した内容で話してないことは、馬券は購入金額じゃない。
ということかな。それも教えたかったんじゃないの?」
確かに複勝1000円でかなり熱くなれた。
競馬で稼ごう生計を立てようというのは本当に奥が深いんだなと改めて痛感した日でした。
しばらくして、会計を済ませて店を出ようとしたらマスターが
「萩さんが今週は競馬場に行けないって伝えてほしいって」
「そうですか。ありがとうございます」
これもおそらく師匠のやさしさ、
私に一人で考える時間を持てということだとすぐわかりました。
そして私は自分なりに考えて、
次の土曜日、日曜日ともに競馬新聞を買いはしたものの
馬券を購入することはせず、ただひたすら予想をして、
レース結果を見て的中した時はどこが良くて的中したのか、
また外した時はどこが悪くて的中できなかったのかを検討して2日間を終えた。
そしてなぜか、月曜日に師匠から電話でアビーロードに呼び出された。
当然のように予定をキャンセルしてアビーロードに向かった。
「門倉君、師匠がお待ちだよ」マスターは笑顔で。
「こんばんは。どうしたんですか」
「いや、土日の競馬の様子を聞こうと思って」
「予想だけして、1Rも馬券を購入してないです」
しばらく師匠は考えて、タバコの火を消し、飲み物をぐっと空けて
「マスター、お代わりいいかな」そして
「それは無駄な時間を過ごしたね」
まさかの言葉に、辺りは真っ白、空白、空虚
静かに時間が流れる。そしてしばらくして師匠が口を開いた。
「どうしてかわかる?」
「いや、全く」
「門倉君は、どれくらい紙面が読めるの?」
私はまた突き落とされた気がした。
今度は真っ暗闇に、そこは混沌としていて、出口のない、まさに深海、大海原。本当に孤立状態。
そして我に返った時に思ったことが
(確かにそうだ。俺はどれだけ紙面が読めてるんだ!?
いや、全く読めていないだろう。
それなのに予想の練習をしても全く無駄。
どうしてこんなことに気づかなかったんだ)
私は師匠に
「いま分かりました。私は全く紙面を読めていないと思います」
「それが分かっただけでも今日来てよかっただろ?」
「はい、ありがとうございます」私はこの時の「はい」を一生忘れないだろうと思った。
「じゃ来週から紙面の読み方を1から教えるよ。但し私が指定するレースを全て予想してきて」
「分かりました」
「じゃ木曜日に連絡するよ」
「はいお待ちしています、よろしくお願いします」
そして師匠だけがお店を出た。
マスターは
「門倉君よかったね。本当にうれしそうだよ」
「だって、本当にうれしいんですよ。あんなにすごい人に出会ったことがないもので、
いや、二人目だ! 麻雀の師匠(西村さん)がいた!
実はみんなにはあまり伝えていないんですが。この人もすごくてね・・・・」
それから2時間もマスターに西村さんの話をしていた。
そして木曜日に師匠から連絡があり指定されたのは日曜日の東京9Rと10Rだった。
私は電話を切ったその時から、すでに予想をはじめていた。
そしてあっという間に日曜日がやってきた。
私は当然前日は12時に就寝して体調完璧な状態で、いつものようにゲートのところで師匠を待つ、
胸躍らせて待つ、時間のたつのがこんなに遅いのかとただただ待つ。
そして、師匠が遠くに見えた。
私はその遠くに見えた師匠に深々と頭を下げそしてよく見ると、またも隣にマスターが・・・
いよいよ私の予想を聞いてもらえる時がやってきたのである。
胸躍らせていた。
しかしここから地獄のような特訓が待っていたのであった。
馬神 シーズンⅢ は
「馬柱の読み方を教わる」
こうご期待!!
※馬神 シーズンⅢは内容をより良いものにしたいので、少しお時間を頂きます。連載日は後ほどお知らせいたします。
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